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今回のテーマは広告宣伝だが、この記念ホールも相当な告知効果があったのではないだろうか。それは、巷でちょっとした注目を集めている「小室哲哉記念ホール」。
あ、また、この話題かという方には恐縮だが、まだ、ご存じない方にご説明すると、彼の母校、早稲田大学系属早稲田実業学校にあるホールだ。ホール内には、彼の金の手形もあるのだが、今回の1件で、同校がどういう扱いをするのか、注目されているのだ。
今回の一件では、いろいろなコメントがされてはいるが、こんな記念ホールができるということは、一時代を築いたアーティストだということは間違いない。
ここまでのメジャー級のアーティストになるには、本人の才能と努力はもちろんだが、これに広告宣伝が欠かせない。今回は、音楽ヒットの肝となる、広告宣伝費について、みていく。
才能に溢れるアーティストがどんなにいい曲を作っても、多くの人に聞いてもらわなくてはヒットにはつながらない。そこで重要となるのが広告宣伝。駅貼りポスターに電車の中吊り、TVCM、ラジオCM、雑誌広告などなど、広告の種類はさまざま。もうけを大きくするためには、広告宣伝費が大量に必要であり、その予算管理が肝となる。しかしその効果は測りづらい。1,000万円を遣ったのだから、必ず1億円売り上げられるわけでないのだ。ここに、広告宣伝費の管理の難しさがある。
仕入れにかかる費用のように、必ず売上げが増えるのにあわせて増加するのであれば、第1章でもみたように、変動型予算によって決定し、管理するのが適している。
また、詳しくは次章でふれるが、コンサートのような売上に上限があるハコモノ・ビジネスであれば会場費のように、固定予算により、管理するのが適している。この場合、会場を一つ増やすごとに、売上げが増えることが明らかであり、またその予算で想定した「売上げられる枠」を超えて、増やすことはできない。
広告宣伝費の場合、1度に支出されることがほとんどで、固定予算的な性格も持っているが、「売上げられる枠」が決まっていない。広告宣伝は、仕入れとも違うし、会場費とも違っている。
では、どうやって設定すればよいのか?
一つは、積み上げ方式。もう一つは、ブレイクダウン方式である。積み上げ方式は、広告の目標を達成するのに必要なプロモーションの予算を積み上げていく方法である。ブレイクダウン方式は、まず広告予算の枠を決め、その範囲内でプロモーション内容を決めていく方法である。
どんなに緻密に予算を組んでも、実際のコストをその範囲内に抑えなければ意味がない。では、どうやって広告宣伝費を小さく抑えるのか。その一つがタイアップだ。日本の音楽業界では、J-POPのタイアップがヒット曲に結びつくのは大きな特徴ともいわれている。CMソングやテレビ番組のテーマ曲になれば、何度も視聴者の耳に届く。いかにタイアップを利用して、広告費をかけずに宣伝して行くかは、レコード会社やプロダクションの宣伝マンや音楽出版社の腕にかかっているというワケだ。
タイアップの分を、テレビCMとしての広告宣伝費に置き換えてみるといくらになるだろう。
ゴールデンといわれる、だいたい7時から9時くらいに、15秒のCMを放映すると、その番組や曜日にもよるが、200万円くらいかかる。1分間、曲を流してもらえたのであれば、60秒なので、15秒の4倍で、800万円相当と計算することができる。タイアップにより、そのコストが抑えられたのだ。
ちなみに、CMの相場は図のように、時間帯や放送局によって異なる。
| 放送地域 | 放送局名 | 1口・10回の 料金(税込) |
CM放送時間 | |
|---|---|---|---|---|
| パターン(1) | パターン(2) | |||
| 関東全域キー局 | 日本テレビ放送網 | 5,250,000円 | 放送開始~放送終了 (19時~23時除く) 昼 |
25時~放送終了 深夜 |
| TBSテレビ | ||||
| フジテレビジョン | ||||
| テレビ朝日 | ||||
| テレビ東京 | ||||
| 関東独立U局―東京 | 東京メトロポリタンテレビジョン | 472,500円 | 6時~25時 | 23時~26時 深夜 |
| 関東独立U局―神奈川 | テレビ神奈川 | |||
| 関東独立U局―埼玉 | テレビ埼玉 | 409,500円 | ||
| 関東独立U局―千葉 | チバテレビ | 367,500円 | ||
| 関東独立U局―栃木 | とちぎテレビ | 336,000円 | ||
| 関東独立U局―群馬 | 群馬テレビ | |||
| 北海道 | 札幌テレビ放送 | 840,000円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~27時 |
| 山形 | 山形放送 | 346,500円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~26時 |
| 静岡 | 静岡第一テレビ | 525,000円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~27時 |
| 新潟 | テレビ新潟 | 472,500円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~26時 |
| 東海全域ネットワーク局 | 中京テレビ | 1,837,500円 | 6時~27時(19時~23時除く) | 23時~27時 |
| 中部日本放送 | ||||
| 東海ネットワーク局 | テレビ愛知 | 945,000円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~26時 |
| 関西全域ネットワーク局 | 読売テレビ | 2,887,500円 | 放送開始~放送終了 (19時~23時除く) |
24時~放送終了 |
| 毎日放送 | ||||
| 関西ネットワーク局 | テレビ大阪 | 1,732,500円 | 6時~25時 | 23時~26時 |
| 広島 | 広島テレビ | 525,000円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~27時 |
| 福岡 | 福岡放送 | 850,500円 | 6時~25時(19時~23時除く) | 23時~26時 |
2つのアルバムを1つの広告宣伝で告知するには?その方法のひとつが、このボーナス違い・ジャケ違いのアルバムだ。
1タイトルのCDの発注量を減らし、収録されているボーナストラックの種類が違うものを2種類発売したらどうだろう。いわゆる“ジャケ違い”、“バージョン違い”などと言われるものだ。熱狂的なファンであれば、2枚とも買う人は当然多くなるので、音楽業界では、売上げ枚数を増やすため、この方法がとられていることが多い。
第5回の『新しいアルバムをリリースするには、いくらかかるのだろう』と同じ事例を、もしも、ボーナストラック違いで、2つのアルバムとしてリリースしたら儲かるのか?
この10曲を2つのアルバムに分けるため、共通で収録する8曲とそれぞれのアルバムにオリジナルの曲を1曲ずつ収録することにする。定価をそれぞれ、3,000円に下げることにする。売上げの見込みは、両方のアルバムを買うファンもいると予想し、6万枚ずつで合計12万枚とした。
2つのアルバムになったため、もう1タイトル分のジャケットの制作費が150万円追加でかかる。 プレス費は、10万枚から12万枚に増えたので、2,400万円になった。しかし、同時リリースするため、まとめて広告宣伝するので、その費用は4,500万円のままで済ますことにした。
2つのアルバムをまとめて損益が分岐する枚数は、
固定費の合計8,500万円÷2,040円=約4万1,666枚
になる。仮に両方で12万枚を売り上げたら、
定価3,000円×12万枚―変動費960円×12万枚―固定費8,500万円=1億5,980万円
の利益になる。
この売り方だと、原盤製作費や広告宣伝費が共通なので固定費の増加を小さく抑えられる。そのため、損益分岐売上枚数をあまり変えずに、売上げアップを見込めるので有効だ。
アーティストが当たれば大きいが、こけたときは巨額な広告宣伝費が、そのまま大きな損失となってのしかかってくる。
しかも、どんなにヒットした曲もブームがすぎれば、最盛期ほどは売れなくなる。ときには、将来のヒットをつくるため、今は無名のアーティストにも投資が必要となる。
そこで、旧譜の売上げが実は一役かっている。なぜなら、旧譜は広告宣伝費がかからないからだ。旧譜は、すでに認知されており、マルマル売上げが利益になるからだ。しかも、ヒットした旧譜はその実績から安定した収入が期待できる。
CD売上げの中心は新譜ではあるが、実際CDショップを見渡してみると、かなりの売り場面積を旧譜が占めている。旧譜は、CMやドラマなどで使用されリバイバル・ヒットになったり、音楽史に残る名盤ともなれば、一生ものの商品なのである。
レコード会社は、この旧譜の売上げで得た利益を新人や中堅アーティストのためにあてる。名盤が増えることで、前年の新譜ヒットから今年のヒットを作り出すという綱渡りのような資金繰りから脱却できる。
そして、ヒット曲から次のヒット曲を生み出し、お金を回していく。博打から安定したビジネスへと変わっていくのだ。
次回は、コンサート・ビジネスについて、みていく。コンサート会場が埋まらないと、損失に。一方、どんなに売れても、コンサート会場の人数までしか売り上げができない。
ハコモノ・ビジネスの儲けの仕組みを解き明かす。乞う、ご期待!
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著者:松尾里央(まつお りおう)
(株)ナイスク常務取締役。早稲田大学政治経済学部卒。税理士として、財務経理業務、専門学校で講師を行う一方、本づくりの楽しさに魅せられ、同社で出版・映像制作に携わる。
同社は、スポーツ事業部としてオーストリアスキー教室6校、ナイスクテニス教室を主宰。また、出版事業部として、ビジネス、趣味、スポーツ、健康など実用系の雑誌・書籍を制作。映像制作事業部としてテレビ番組やCM、ビデオの制作。
ヤングキャリアーセンターなどで出版業界就職セミナーを講演するほか、著作に、進化型ビジネス用語辞典『ビジ単』(双葉社)、『企画立案完全マニュアル』(双葉社)、『小さな会社のそのまま使える社内文書実例185』(成美堂出版)などがある
『あの映画は 何人みれば 儲かるのか?』
【発行日】2008/11/1
【著者】松尾 里央(まつお・りおう)
【本体価格】1,300円(税込1,365円)
【発行】TAC出版
【ジャンル】ビジネス書
【ISBNコード】9784813230694

